精鋭8組終結

M-1グランプリ2010・決勝進出者が決定しました。
銀シャリピースカナリアジャルジャル・ハライチ・笑い飯・ナイツ・スリムクラブ
赤色で示したコンビは私が決勝進出を予想していたコンビです。
さて今回の決勝進出者を見て一番に思うのは、やはり初決勝コンビの多さです。
銀シャリ・ピース・カナリアジャルジャルスリムクラブの5組。
千鳥やPOISON GIRL BAND東京ダイナマイトパンクブーブーなどが落選しています。特に、千鳥・POISON GIRL BANDが落ちたのは個人的に非常に残念です(とはいっても敗者復活が残っていますが)。近年のM-1細かいボケとツッコミのテクニックが重視される傾向があるようなので、彼らのように独自のテンポと視点を武器にするコンビは多少不利なのではと感じます。
その中で注目したいのが、カナリアスリムクラブ
カナリアはおそらく歌ネタ。スリムクラブは独特の沖縄なまりの節回しが魅力です。千鳥・POISON GIRL BANDのように細かいテクニックよりもネタの発想で勝負する彼らが決勝に残ったことは大きな意味があるでしょう。
そして、もうひとつ。この8組を見て最も興味深い点は「コント師」の台頭です。
ジャルジャル・ピース・スリムクラブ。この3組は他のコンビとは違い、漫才よりもコントをメインにしているコンビといえます。これまでにも、サンドウィッチマンのようにコント師M-1を(いい意味で)かき乱すことはありましたが、今回の3組という数はかなり多いのではないでしょうか。ここでもう一つ補足をすると、M-1ではピースは漫才用のネタをしあげてくるのに対し、ジャルジャルスリムクラブはおそらくコントのネタを漫才に書き換えると思われます。これには非難の声もあるでしょう。「漫才の大会なのだから、正真正銘の漫才ネタで勝負しろ」と。私もその考えには共感できます。ですが、コントネタを漫才ネタに書き換えると確実にそのクオリティは多少なりとも下がるはずです。そのクオリティの落ちたネタで決勝に進出することができるほどであるなら、そんなすごいネタを作れるコンビの勝ちなのではないかと考えることもできます。ですから「面白いもん勝ち」この一言に尽きるんじゃないでしょうか。

少し話がそれてしましました。軌道修正しましょう。
ネタ順と同じ順番で、各コンビの見どころと印象を考えていきたいと思います。
カナリア
一昨年あたりからM-1用のネタの仕上げ方が格段に上達してきたコンビであり、今年の結果は順当であると思います。
先ほど触れたように、歌ネタを中心にボケの安達さんの「ええ声」が特徴的な心地よい漫才をするコンビです。
ただし、ネタ順が一番ということで「変化球」タイプのカナリアには大きなハンディキャップとなるかもしれません。

ジャルジャル
大阪発・人気若手コント師。去年までのM-1でのネタをみると、どうも今回の決勝進出は納得がいかない。僕の予想以上にM-1に適応させるの技術がアップしたということなのでしょうか。大勢の人が感じるように、人気のあるコンビで視聴率を取ろうという考えもなくはないと思います。ですが、それはそれで僕は非難しません。前々回のブログで述べたようにM-1では公平な審査がなされるべきなのは当然ですが、このイベントは「TV商業」であり「ボランティア」ではないのです。ネームバリューがあるコンビが決勝に出やすいというのも当然と言えば当然です。ただどれだけネームバリューがあっても、決勝進出してもおかしくないと思えるほどネタがウケないと決勝へは絶対にいけないはずですから、今回はそれだけネタがウケたんでしょう。軽視している僕をギャフンと言わせるほど面白い漫才を期待します。

スリムクラブ
まさに今回のダークホース。知る人ぞ知る実力者です。彼らの当選で、はやり面白ければ知名度は関係ないんだと思わされました。テレビでネタを披露する機会もあまりなく、どんなコンビでどんなネタかまったくわからない。M-1にとってこれほど有利な条件はないでしょう。8組の中で最も注目してほしい、注目するに値するコンビだと思います。心配な点としては、POISON GIRL BANDの独特の世界観がM-1決勝ではあまり高い評価が得られなかったように、彼らも独特の世界観がありますので審査員にそれがどう映るかということでしょうか。

銀シャリ
baseよしもとのリーサルウェポンとでもいうべき逸材です。近年、大阪で賞を総なめにしてきた彼らがついにM-1の舞台へ上がります。生粋のしゃべくり漫才でこれぞ上方漫才という素晴らしいネタを期待します。言葉の選び方・話し方・声のトーンなど、しゃべくりに関して言えばどのコンビよりもセンスを感じます。私が思うに、審査員にもこの技術はそうとうな評価を受けるのではないでしょうか。また、ネタ順もいいので非常に活躍が楽しみなコンビです。(ただし、M-1ジンクスでは4番という出順は悪い)

⑤ナイツ
3年連続決勝進出の常連コンビ。前年ではヤホー漫才以外で勝負し、まだまだのびしろがあることをアピールした。ただやはり、「言い間違い」漫才はかなり固定化した形式であり、審査員・観客ともに彼らの面白さを理解している点において不利であることに間違いありません。私の個人的な意見としては、もっと違う形の漫才を見せてほしいです。去年のM-1では一昨年と比べてどれだけ進化しているのか楽しみにしていたのをあっさり裏切られた気分になりました。というのも結局、言い間違いを訂正していくというスタイルに終始し、新しいものが見えなかったからです。あれだけの漫才の実力があるのだから、もっと何かできるだろうと、そう考えてしまいました。今年こそは、真の力を見せつけてほしいと思います。

笑い飯
生きる伝説Mr.M-1。様々なM-1伝説を残してきた彼らも今年でラストイヤーです。Wボケという発明は現在の若手漫才師やNSC生に至るまで、計り知れない影響を与えています。しかし、そんな素晴らしい発明も人間と言うのは恐ろしいものですでになれてしまいました。もう笑い飯は終わりかもしれない、という考えを多くの人が抱く中、去年その不安を一気に拭い去るような最高のネタを披露。彼らの底力のハンパなさをお笑いファン全員が目の当たりにしました。そして、今年すべてのM-1人生に最高の終止符を打つべく決勝の舞台にやってきます。優勝候補筆頭、地力だけでいえば他を寄せ付けないのではないでしょうか。

⑦ハライチ
2年連続の決勝進出。ノリボケ漫才としてツッコミのない漫才をします。実は前例からみると、ツッコミがないもしくはツッコミがゆるい漫才は評価されにくいという傾向があります。しかし去年、ノリボケ漫才はそれに当てはまりませんでした。本人たちが勢いに乗れば乗るほどヒートアップしていくという印象があり、固定的なネタ構成もフレーズを厳選することで無限に広がります。芸歴も浅く、年齢も若い彼らが、去年の決勝の舞台で何を学び何を感じたか。それを今年ぶつけるということになるでしょう。

⑧ピース
M-1において着々と実力を伸ばし、今年のキングオブコントでは準優勝を果たしたコンビがようやくM-1決勝に殴りこみ。コント師でありながら、コントネタを書き換えるのではなく漫才ネタで勝負します(彼らのコントは漫才に書き換えにくいだけということも言えそうですが)。コント・漫才の両方でトップクラスということは彼らのお笑いの実力が卓越していることを物語っているでしょう。最近、TVにひっぱりだこの彼らですが、少ない時間でネタを仕上げてここまで登ってきたことは素晴らしいと言えるでしょう。今年最も勢いのある若手芸人として、舞台で輝いてほしいと思います。




以上で8組の見どころ・印象についての考察を終わります。
誰が勝ってもおかしくない、予測不可能な大会になることは間違いなさそうですが、さらにもう一点「敗者復活」を忘れてはいけません。敗者復活を勝ち残ったコンビが大会を大きくかき乱す可能性は非常に高いはずです。



さて、ここで今回のネタ順で気になった点をいくつか考えてみたいと思います。

1つ目:1〜3順目までが正統派漫才ではない
カナリアスリムクラブは自分たちの個性を生かした独自の漫才をし、ジャルジャルはおそらくコントネタでくることを考慮すると、最初の3組までは正統派漫才ではないと考えることができます。となると次の出順である、正真正銘・上方漫才の後継者「銀シャリ」のレベルの高い正統派漫才が審査員に高い評価を受ける可能性は大きいと思われます。

2つ目:4→5への流れ
4番目「銀シャリ」5番目「ナイツ」この流れはかなり重要で奇妙なポイントとなりそうです。彼らのネタは発想が非常によく似ているのです。ボケの言い間違いをツッコミが直す、この形が彼らの漫才のアイデンティティであり全てです。ただし、決定的に違う点もあります。それは、大阪漫才か東京漫才かということです。正確に言うと、ナイツはボケの言い間違いで笑いをとり、ツッコミでさらに追い打ちをかけるような形をとるのに対し、銀シャリはボケで笑いを喚起し、ツッコミで爆発させるという形をとります。ナイツはボケ>ツッコミ、銀シャリはボケ<ツッコミです。銀シャリのネタはツッコミを非常に重要視する大阪の感覚に適合した形といえるでしょう。この2組が連続で登場するため、後発であるナイツは否応なしに前組である銀シャリと比べられます。点数に大きく響くことになりそうです。

3つ目:ハライチの心情
7順目という良い出順を引いたハライチですが、問題点が一つ。去年のトラウマを思い出させる笑い飯の直後出番なのです。去年の決勝では笑い飯が超高得点を獲得し、気持ちの整理がつかないまま出番を迎えました。ですが、彼らの心理はそれほどに悪い状態ではなかったでしょう。なぜなら、あまりにも急なことで気持ちの整理をする余裕もなく、何も考えずにただ自分たちの漫才を最高のものにしてやろうとがむしゃらになることができたからです。ネタ直後のトークでも「逆に緊張感がとれた」と語っていました。しかし、今回は違います。M-1決勝が始まる前から、いや、ネタ順が決まった直後から、彼らは笑い飯という大きな壁を常に心のどこかで意識しなければなりません。常に心の中では笑い飯対策に終始しなければならなくなります。この心理状態で最高のパフォーマンスを発揮するのは至難の業ではないでしょうか。




以上が私が気になった点です。
このネタ順を考慮すると、④銀シャリ笑い飯⑧ピース、あたりが実力と合わせて考えても優勢かなと思います。
当然、当日に最高の仕上がり状態で臨んでくる「敗者復活枠」も脅威となることは間違いないでしょう。

様々な考察をしてM-1の裏側をのぞいてきました。表には出さない隠れた要素を知れば知るほどM-1を楽しく見ることができるでしょう。しかし、M-1を楽しく見るためにはやはり、フラットな状態で、一観客として、公平な立場で見ることが一番ではないでしょうか。
誰かの応援をすると、そのコンビの点数が悪かった時、他のコンビが上回った時に落ち込んでしまいますからね。
純粋に、芸人たちが1年をかけて最高に仕上げた漫才を、笑いを、心から楽しむ。その気持ちが必要ではないでしょうか。



(芸人さんの実情もよく知らない私がが知りえる情報だけを考慮して書いた文章ですので、至らないところや的外れなところもあるかとおもいます。一人のお笑いファンが個人的な観点から考えた分析だと理解してくれると助かります。また文中に登場する芸人さんの敬称を略しておりますことご了承ください。)